
Vol.11 イワンとイスとシュービルさん
毎年4月1日になると、郵便局長のシュービルさんが遠くアルスから月を抜けて、ママからのバースディ
カードをイワンの元へ届けてくれます。
−あの頃は俺もほんとにちび助だったから・・・
イワンはこのカードのように、シュービルさんの鞄に入れられて、わちふぃーるどにやってきたのです。
いくらちび助でもカードよりはずい分重たく、鞄の底が破れて、落ちたイワンはエバーストーンの森に受け
止められました。それ以来イワンは森に育ててもらったのですが、シュービルさんの事はついぞ考えません
でした。何しろシュービルさんの大きな嘴は脅威でしたし、ギロリと横目を使う鋭い目には、何もかも見抜
かれているようで苦手だったのです。
久しぶりに見たシュービルさんの後姿は、ずい分年をとってしまったようで、羽の動きにも精がないよう
です。イワンはシュービルさんが楽を出来るようなイスを贈ろうと決め、フォーンの森に出かけて妖精の木
と言われるフォーンズオークの木から、材料を切り出しました。フォーンズオークは硬くて密度があり
細工が大変です。イワンはイスを作りながら、木に言い聞かせるようにシュービルさんの話をしました。
背当ては付けない代りに、両袖を大きく取って羽を広げて休めるようにし、その大きな袖には引き出しを
作りつけて小物をしまえるようにしました。出来上がりは素晴らしく、ていねいに布で艶出しをして仕上げました。
問題は、このイスをどうやってシュービルさんに届けるかです。イワンは悩みながらとうとう郵便局の前まで
来てしまいました。シュービルさんは、郵便局の上に住んでいますが、どうも会って渡すのは気が進みません。イワンはイスを下ろすと、それに腰掛けました。まあなんてすてきな掛け心地なんでしょう。イワンは
ワインを取り出して、飲み始めました。暖かな夜で、真っ白な月がぽっかりと浮かんでいます。
真夜中のタシルの街で、手作りのイスに座って一杯やるなんて、実にいい気分です。
イワンは次第に何のためにここにいるのか忘れてしまいました。
すっかり酔っ払ったイワンが転げ落ちたのを潮に、イスは空を見上げました。するとまん丸の月から
白い光が一筋とどき、イスは光に包まれてふわりと空に浮かび上がりました。そしてそのままシュービルさん
の部屋の窓辺まで光に乗ってあがっていきました。
シュービルさんは窓を大きく開けると驚いた様子もなく、イスに「さあさあ、おはいり」と声を掛けました。
イスは大きな仕事机の前まで進み、小さなじゅうたんの上で身じろぎをしました。シュービルさんはその上に
そっと座り、両袖に大きく羽を広げて休ませました。シュービルさんとイスはサイズもぴったりと合う上に
意気も合い、すぐにお互いかけがえのない存在となりました。
街の噂によると近頃のシュービルさんはとても元気そうで、外では飛び回っていますが、家の中では座って
ばかりいるそうです。
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