
Vol.17
カシガリ山の収穫祭
カシガリ山の木々が真っ赤に色づく頃になると、タシルの街でも収穫祭が開かれます。
収穫祭は山の神、野や森の神に感謝を込めた祭りですが、タシルの街ではカシガリ山の三人の魔女のひいおばあさんにあたる「セ」に対する供物として、その年に取れた農作物を捧げる慣わしとなっています。 街の広場では、たまねぎ市やチーズ市などが開かれ、夕暮れにはトロル川のたもとの東の門から、供物と提灯を捧げた動物達がカシガリ山へと出発するのです。
三人の魔女の末の妹ピクルスは、自分も収穫祭に行きたくて仕方ありません。ねえさんたちには反対されることが目に見えているので、こっそり抜け出して街まで降りることにしました。 赤いスカーフを目深にかぶり、赤いスカートをはいてしまえば、もう誰の目にも魔女とはみえないでしょう。その証拠に、にぎやかな街の広場で、ピクルスは普段決して近くに寄ってこない動物達から、たくさんの親切な声をかけられました。
「ほら、ちょっとこのおいしいスープを飲んでお行きよ」とか、「たのしんでるかい?」とか、ピクルスはなにやらくすぐったく、浮かれ気分になってきました。 やがて、「行列がはじまるよ。東の門に集合してくださーい」という声が聞こえ、動物達はゾロゾロと移動を始めました。
雑踏の中にダヤンを見つけたピクルスは、なんとなくなつかしくなり近寄っていきました。「おや?提灯はもっていないの?」ダヤンに聞かれ、下を向いてうなずくと、マーシィが一緒に行こうと誘ってくれました。「カシガリ山には恐ろしい魔女がいるのよ」 「魔女ってそんなに恐ろしいの?」「ああ、口なんてこんなさ」イワンが歯をゾロゾロと見せながら言いました。「きみなんてひとくちで食べられちゃうよ。だけど、俺がついているから大丈夫さ」
イワンは、赤いスカーフに赤いスカートの一人ぼっちのエルフが一目で気に入ってしまったのです。 「お供えは何をもってきたの?」仲良く隣を歩きながら、ピクルスはイワンに聞いてみました。 「蜂の巣さ。ごらん、みつがぎっしりつまってるんだぜ。ひとくちでもきみに食べさせたいよ」
もちろんたべるさと思いながら、ピクルスはふふふとわらい、思わず流れてくる涎をこっそりスカーフでぬぐいました。
「ダヤンの小さなおはなし」より要約。
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