
Vol.7 幻の魚リンドロン
ある日ダヤンの家のポストに、こんなちらしが入っていました。
かわうそのてんらんかい ばしょ、かまぼここうじょううら ぜんぶさかなのえです 魚の絵ですって?なんておもしろそうなんでしょう。場所がかまぼこ工場というのも素敵です。ひょっとしたら、お客さんのお茶うけにかまぼこを出してくれるかもしれません。
ダヤンは次の朝早く行ってみることにしました。
かまぼこ工場は、トロル川に沿ってたっています。いたちやかわうそは、みんなこの近所に住んでいるのです。展示会場のかまぼこ工場のうらに行ってみると、細長い工場の壁一面に絵が描いてあります。大きな魚、小さな魚、踊っている魚、本当に魚の絵ばかりです。朝早いせいか観客は誰もいません。そればかりか、もてなしてくれる
はずのかわうそも一匹もいません。
ダヤンは仕方なく端から絵を見ていきました。魚の絵は、よく見るとどれも背びれと
尾ひれが黄色に塗ってあります。「どこかで見たような魚だなあ」ダヤンがひとり言をいうと、突然後ろから声がかかりました。「気がついてもらえました?これはみんな、いつか君が釣ってくれたリンドロンなんだ」ダヤンの後ろにはいつのまにかかわうそ達が大勢集まっていました。「僕たちの獲った魚と君の釣ったリンドロンを交換してから、前よりずっと魚が獲れるようになったんだ。でも今年は雨が少なくて、トロル川の流れが悪くなったせいか、さっぱり魚が獲れない。かまぼこ工場も休んでいるんだ」ダヤンはそれを聞いてがっかりしました。その時、小さなかわうそが進み出て続けました。「僕たち考えたんだ。リンドロンの絵を描いて、君に来てもらおうって。君は猫だから、魚の展覧会をしたらきっと来るに違いないから。ねえもう一度、リンドロンを釣ってよ」
そう言えばダヤンはちっとも魚の釣れないある日、かわうそ達の獲ったたくさんの魚とリンドロンと名づけた幻の魚を取りかえっこしたことがあります。だましたつもりではなかったのですが、ダヤンはちょっと恥ずかしくなりました。それにおまじないの文句だって忘れてしまっています。
けれどもかわうそ達は本当に困っているようですし、かまぼこが作れないのでは
ダヤンも困ります。どうしようかと考えていると、壁に描かれた魚がびくっと動いたような気がしました。魚は黄色い尾ひれで壁をたたくと、その勢いでトロル川めがけて飛び込みました。絵の魚は次から次へと壁から飛び出し、とうとう一匹残らずトロル川に消えていきました。ダヤンの家に出来たてのかまぼこが届いたのは、それから一週間ほど経った日のことでした。
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